研究概要 |
月尾部の真空領域と太陽風領域の境界部分においては、太陽風の電子と陽子の熱速度差により太陽風は分極し、電位構造が生成される。この電位差は、過去の間接的な観測によって400V程度であると推定されている一方で、計算機実験による検証では40V程度と結論されている。この不一致は過去の計算機実験におけるいくつかの仮定によって生じるものであると考えられる。特に月の真空領域につながる磁力線に沿って熱的太陽風電子の10倍以上(strahl成分)のエネルギー帯において双方向流の電子が観測されている(Futaana et al.,2001)ことから、過去の計算機実験では無視されてきたこの非熱的電子が、電位差生成に影響を及ぼしていると考えられる。 そこで月尾部真空領域における電磁プラズマ環境、特に電位構造や電子の分布関数を詳細に検討するために1次元静電粒子コードを作成し、計算機実験を行なった。まず、作成したコードの精確性を確認するために、プラズマ波動伝播実験を行ない、波動の伝播方向に矛盾がないことや系全体でエネルギーが保存されることなどを確認した。 続いて、作成したコードを用いて月尾部真空領域を再現するための計算機実験を行なった。その結果、比較的大きな電位構造と太陽風領域へ反射される電子を確認した。また、strahl成分の電子を加えて計算を行ない、双方向流電子の生成を確認した。 しかしながら上記計算においては計算時間短縮のため、電子と陽子の質量比を20ないし200と仮定しており、生成される電位差が一意に定まらない。よって定量的な議論は今後の課題となるが、定性的には過去の観測結果と一致しており、月尾部真空領域周辺における非熱的電子の重要性が認識された。
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