平成3年度においては、アルタイ山脈を中心に遊牧についての歴史民族学的な調査研究をおこなった。調査隊を民族班(松原、楊ー現地参加)と歴史班(浜田、堀、林、庄司)にわけてそれぞれ調査活動を遂行したが、一部の期間は合同で調査にあたった。 民族班では、アルタイ山脈の夏営地に滞在するカザフ族とモンゴル族について、住みこみ調査をともなう歴史民族学的な調査をおこなっている。その結果、さまざまな新しい知見を獲得することができた。とくに、情報の空白地帯となっていたこの地域の遊牧生活について、詳細な資料を入手している。これらの資料により、さまざまな社会的変動にともなう影響をうけながらも、数100kmにわたる移動をふくんだ遊牧生活が活発におこなわれていることが明確になった。またカザフ族の集団内には現地語でククモンチョクトよばれるトゥバ族の集団の混住していることが確認された。この事実はアルタイ地域の諸民族の交流を歴史的に考察するうえで、貴重な資料となるであろう。 新疆のモンゴル族の現状についても、これまでひじょうに乏しい情報しかなかった。今回の調査によって、トゥルグ-ト、ジュンガル、チャハル、ウリアンハイなどモンゴル諸族の生活について正確な情報をうることができた。 歴史班は、主としてアルタイ山脈を中心とした歴史的な遺物、遺跡、文書などの調査にあたった。そのなかには、今回の調査であらたに発見された遺跡もふくまれている。 アルタイ地域を主要な対象とした遊牧についての歴史民族学的研究は、今後継続することによって、さらに資料を蓄積し、この分野におけるあらたな地平を切りひらく研究へと展開してゆくであろう。
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