研究課題
わが国における文化財の修復の歴史は各時代を経て、それぞれ特徴的な経験と施工を積み重ね、また修復の諸過程にあっては歴史・文化の研究に寄与する新資料を提供してきた。こうした文化財の修復は伝統的な技法・材料等を用いて行われてきたが、近年では科学的な方法や材料をもちいて実施することも多く、その成果に多大はなものがあり、なお今後に研究の進歩が期待されている。一方、最近では博物館・美術館・資料館等の文化財活用施設の増加等の事情もあって修復される文化財は次第に増加してきている。こうした状況にもかかわらず、これまでに行われてきた文化財の修復の実態についてほとんど未整理である。本研究は、文化財の修復実施の実態を可能な限り収集してデ-タ化を行い、文化財保護推進のための基本資料として情報化を図ることを意図した。またこれを修復等の技法・材料等に関わる新開発のための基礎資料としても活用できるように整理し、また併せて既修復文化財の経年的変化を追跡し、修復の諸問題点を究明しながら、今後の修復事業のあり方などに役立つように実施した。なお、本研究で対象とした文化財とは有形文化財を主とし、主に絵画・彫刻・工芸・書籍・典籍・古文書・孝古資料・歴史資料である。本年度の具体的内容は、文化庁および社寺等に保管されてきた修理記録をもとに、基礎台帳の作成、デ-タの入力・処理・蓄積のためのソフトウェアの開発、関連する画像デ-タの収集・処理・蓄積のためのシステムの構築を開始した。収集されたデ-タは、主として絵画・彫刻関係文化財約600件の修理内容である。またこれらの文化財のうち修理内容・収蔵施設状況等を大別し、修理後の経年変化等の追跡調査を行なった。(寺院関係10ヶ所、神社関係5ヶ所、博物館関係10ヶ所、美術館関係5ヶ所、一般収蔵庫関係5ヶ所、個人関係5ヶ所)