研究課題
文化財の修復は、現在までに多くの施工経験を積み重ねてきた。この過程にあって、新たに発見された新資料を提供して歴史・文化の研究に寄与してきた。最近では博物館・美術館・資料館などの文化財公開・活用施設の増加の事情もあって修復される文化財が、次第に増加してきている。しかし、これまで行われてきた文化財の修復の実態については、ほとんど未整理である。この実態を可能なかぎり収集してデータ化を行い、文化財保護のための基礎資料として情報化を図ろうとするものである。本年度は、国宝高松塚古墳壁画、静岡県細江町瀧峯銅鐸、福岡県夜須町峯5号甕棺出土銅剣など、約300件ほどの修復記録を35mmフィルムからフィルムスキャナーを通してレーザーディスクに画像入力し、また文字情報も入力した。修復した文化財の経年変化については、修復記録を参照しながら重要文化財中尊寺金色堂巻柱、熊本県横山装飾古墳壁画、重要文化財臼杵磨崖仏、熊野磨崖仏などの修復後の劣化状態の把握と記録作成を行った。横山装飾古墳の壁画は、昭和52年に溶剤タイプアクリル樹脂の10%アセトン溶液を使用して剥落防止処理を行っているが、樹脂の凝集力によって彩色に層状剥離が認められた。このような障害を起こしている一部の修復材料(主として合成樹脂)のサンプリングを行い、これを赤外分光分析などで修復材料の損傷程度や劣化原因等の調査を実施した。