研究概要 |
構造帯に産する石灰岩の中で環礁型石灰岩,陸棚型石灰岩と並んで,一つの重要なタイプとなっているミクライト質石灰岩の希土類元素の研究を本年度の一つの重点とした。具体的には,北海道東部・常呂帯(ジュラ-白亜系)に産する知来ミクライト質石灰岩について検討した。この石灰岩はチャート,緑色岩類とともに産し,堆積相,微化石,古地磁気などの研究から深海底にひろがる海山のすそ野で生成したものと考えられている。今回得たこれら石灰岩の希土類元素の分析結果も,これまでの地質学・堆積学的推定を強く支持する。希土類元素存在度の特徴は,(1)弱いW型テトラド曲線を示す,(2)非常に大きなCeの負異常が認められる,(3)明確なEuの負異常があり,海水のEu負異常の値に一致する,(4)Y/Ho,Y/Er比は,コンドライトの値より大きい。しかし,本邦ペルミ紀の石灰岩に比べるとY/HREE比はそれほど大きくはない。この(1)-(4)は,いずれも海水のREEパターンと共通する特徴である。更に,重要なのは,希土類元素それ自体の濃度が極めて高く,そのREE・Y濃度はP濃度と非常に良く相関していることである。さらに,知来石灰岩の海水に対するREE濃縮度は,海水中におけるアパタイトのREE吸着パターンに酷似していることも判明した。従って,知来石灰岩のREE・Yは海水のREE・Yがリン酸塩として濃縮されたものであると考えられる。非常に大きなCe負異常は,海水自体のCe異常を反映しているものと考えられる。現在の外洋表層海水や大陸縁辺部の海水では,このような大きなCe異常は知られていない。現在の海水では,大きな負のCe異常は外洋深層海水に著しいことから,知来ミクライト質石灰岩はジュラ-白亜紀の外洋深層海水からREE・Yを濃縮したものと判断される。
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