研究概要 |
本研究ではMeV/u領域のイオン照射によって単結晶試料から放出されるkeV領域のイオン励起2次電子をチャネリング入射条件(シャドーイング条件)とランダム入射条件において測定し、その収量比Wの解析からイオンの固体内荷電状態を決定している。今年度より可動ビームスリットでビームを段階的に絞り込むことによってWのビーム平行度依存性を測り、ビーム開き角Oに対するWの値をビーム電流値O(スリット幅O)への外挿値として求める方法を試みた。その結果、Wの値を約3桁の精度で決定することが可能になり、イオンの固体内有効荷電の決定値における誤差を従来に比べて約30%に下げることができた。 このような実験方法の進歩により、従来の薄膜透過実験では検出できなかった固体内イオンの特徴的な荷電状態が観測された。例えば、前述の2.5MeV/uイオンについては平衡荷電状態はOより軽いイオンではほぼ裸であり、Si,S,Clでは数個の電子を捕獲していることが透過実験から知られている。ところが本研究の結果は、薄膜透過後とは全く異なるイオンの固体内荷電状態が存在することを示している。すなわち、2.5MeV/uイオンがSi単結晶表面に入射して約200A^^Oの深さに達するまでの荷電状態について、 (1)Cより重いイオンは入射時の価数に依存した非平衡な荷電状態にある。 (2)裸の(Fully-stripped)B,C,OではWの値が同じであることから、これらのイオンはSi内で電子を捕獲していない。 (3)C^<4+>,O^<5+>の荷電状態はSiに入射した後もほとんど変化しない。 (4)価数13+および7+で入射したSi,SイオンはSi内でそれぞれさらに6および2個の電子を捕獲しているのと同等のスクリーニング効果を受けている。Clについてもほぼ同様の傾向が見られる。 等の事実が明らかになった。
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