2-(置換9-トリプチシル)-2-メチルプロピルアミンのジアゾ化反応を、亜硝酸イソペンチルと酢酸の存在下、沸騰ベンゼン中で行ない、その生成物分布から、置換基と炭素陽イオンとの相互作用について検討を行なった。なお、生成物の確認と分析は、別途生成物の合成を行なって、そのNMRスペクトルによって行なった。 ap異性体は、置換基のいかんに拘らず、比較的よく似た生成物分布を示した。これは、置換基が遠い場合には、置換基の影響は炭素陽イオンまで到達せず、比較的よく似た結果になったものとして解釈できる。 これに対してsc異性体の場合には、生成物分布に対する置換基特有の影響が観察された。置換基がフッ素の場合には、ap体と生成物分布が比較的よく似ていたが、それでも陽イオンと酢酸イオンとが結合した酢酸エステルがapの場合よりも多量に生成し、フッ素置換基の隣接基関与を示唆した。クロロ置換基は、フッ素置換基に比べて隣接基関与が大きく、酢酸エステルが主生成物となった。この結果から、プロモ置換基についての研究が待たれるが、今回の研究においては、プロモ化合物では信頼できる結果が得られていない。置換基がメトキシの場合には、酸素の関与が大きく、環状エーテルが主成分となり、酢酸エステルも相当量生成した。メチル基の場合は、炭素陽イオンがメチル基のC-H結合に挿入した化合物が主生成物となり、酢酸エステルの生成量もかなり多かった。 これらの結果から、これまで疑問視されていたフッ素の隣接基関与が明らかになったこと、メチル基への陽イオンの挿入が比較的容易に起こることを明らかにしたのが、本研究の特色である。特に後者の結果は、今後有機化学反応論に、かなりの影響を及ぼすものと考えられる。
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