研究概要 |
1.5配位ルテニウム錯体によるH-H結合活性化 [RuH(diop)_2]^+(diop=2,2-dimethy1-4,5-bis(diphenylphosphino-methyl)-1,3-dioxolane)と水素ガスを接触させて得られる分子状水素錯体[RuH(H_2)(Diop)_2]^+の溶液中の挙動を^1HNMRにより詳細に検討し、水素交換の中間体として重要な化学種であるH_3^-の存在を強く示唆する結果を得た。このことは、H-H結合の活性化が従来から知られている酸化的付加を経ずに進行する経路が有り得ることを示すものである。また、典型的分子状水素錯体とH_3^-錯体の相互変換の熱力学パラメーターを決定した。 2.5配位ルテニウム錯体によるジホスフィン配位子のC-H結合活性化と水素交換反応 [RuH(dppb)_2]^+(dppb=1,4-bis(diphenylphosphino)butane)は、低温(-40℃以下)では配位子dppbのα-メチレン水素がagostic相互作用により空の配位座に配位していることをすでに明らかにしたが、さらに詳細に検討した結果、このagostic水素がRuに結合しているヒドリド配位子と交換していることを見いだした。交換速度は-60℃でも数秒に1回とかなり速い。この交換では、C-Hの酸化的付加は起こっていないと考えている。また、上記錯体および類似のdiop錯体やdppp錯体(dppp=1,3-bis(diphenylphosphino)propane)と重水素ガスを接触させると、ジホスフィンのメチレン水素やフェニル基のオルト水素が重水素交換されることが見いだされ、錯体中の室温付近での活発なC-H結合活性化の証拠が得られた。 3.5配位ルテニウム錯体によるSi-H結合活性化 [RuH(dppp)_2]^+とフェニルジメチルシランとを反応させ、5配位錯体によるSi-H結合活性化について検討した。重水素ラベルしたシランとの反応では、Si-DとRu-Hの交換が確認された。また、錯体とシランの反応により系中に分子状水素錯体[RuH(H_2)(dppp)_2]^+が生成することを見いだした。いずれも5配位ルテニウム錯体がシランのSi-H結合を活性化する能力を有することを示している。引続き、系中に発生すると考えられるRu-Si結合をもつ錯体の確認と、その性質について検討している。
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