配位不飽和な5配位ルテニウム錯体[RuH(P-P)_2]PF_6(P-P=各種ジホスフィン)の空の配位座に水素分子(H_2)が配位した分子状水素錯体[RuH(H_2)(P-P)_2]PF_6の溶液中での挙動をNMRを用いて検討した。この分子状水素錯体におけるH-Hσ結合の活性化は、Ru-HとRu-(H_2)との間の水素交換の速度論的パラメータにより比較することが可能であり、ジホスフィンのキレート環のflexibilityが大きいほど水素交換速度が大きくなることを、配位子としてdpbpとbinapを用い、両者の水素交換速度を比較することにより明らかにした。また、ジホスフィンとしてdiopを用いると、水素交換の中間体と考えられる錯体が存在することが^1HNMR測定にの結果から示された。 一方、上記5配位錯体のうち、P-P=dppbおよびdiopについて、低温でジホスフィン配位子のアルキル鎖のC-H基がそのσ電子により中心Ruに配位する、いわゆるagostic相互作用を示すことを見出した。そして、これら錯体において、Ru-HとC-Hの交換が-30〜60℃という低温においてもかなりの速度で進行すること、言い換えると、C-Hσ結合の活性化が容易に進行することを示した。このことは、agostic相互作用が金属によるC-H結合の活性化の中間状態というよりも、活性化の一つのパターンであることを意味する。 さらに、P-P=dpppの5配位錯体とシランH-SiR_3との反応により、H-Si結合がσ結合により配位した[RuH(H-SiR_3)(P-P)_2]^+が生成すること、配位したシランが水分子やアルコールと容易に反応してシロキサンやシリルアルキルエーテル与えるとともに、錯体側は分子状水素錯体へと変化することを明らかにした。また、反応の詳細をNMRにより検討した。
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