研究概要 |
腸管感染症菌が産生する下痢原因毒素の構造と作用の相関を腸管出血性大腸菌の産生するVero毒素と腸炎ビブリオが産生する耐熱性溶血毒についてsite-directed mutagenesis法により研究した。 腸管出血性大腸菌の産生するVero毒素群は6種類(VT1,VT2,VT2vha,VT2vhb,VT2vp1,VT2vp2)が報告されており、酵素活性を持つAサブユニットと、結合に関与するBサブユニットからなる。これらVero毒素の作用機序は、RNA N-グリコシダーゼ活性により真核細胞の60Sリボソーム亜粒子内の28SrRNAの5'末端から4324番目のアデノシン残基のN-グリコシド結合を加水分解し、その結果、EF-1依存性アミノアシル-tRNA結合反応を阻害することがわかっている。AサブユニットのN末端から167番目のグルタミン酸(E)をグルタミン(Q)に変えた変異体E167Q、(以下同様の記述で変異体を示した)、R170L,E167Q-R170L,野生型VT1を精製し、精製標品の細胞毒素を比較した。その結果、Vero細胞に対する活性は、E167QもE167Q-R170Lも野生型の1/3x10^5であり、蛋白合成阻害活性は野生型に比べ、E167Qが1/1x10^4以下、E167Q-R170Lが約1/3x10^3に低下していた。マウス致死活性ではLD_<50>がE167QもE167Q-R170Lも同程度で野生型の約1/1.5x10^3を示した。R170LではE167Q程の活性の低下はみられなかった。 一方腸炎ビブリオの耐熱性溶血毒は、溶血活性、細胞毒性、マウス致死活性、心臓毒性を持つが、これらの活性はW65H、W65Y、W65L、L66Sなどの変異体において著明に減少していることがわかったので、N末端から65番目のTrpと66番目のLeuが活性に重要であると結論した。
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