研究概要 |
有色家兎眼球の脈絡上板摘出潅流標本をカルシウムイオン感受性蛍光色素furaー2で染色し,細胞内カルシウムイオン濃度に及ぼすATPの作用を検討した。ATP(1ー100μM)を潅流投与すると,脈絡上板の細胞内カルシウムイオン濃度は150nMから0.5ー1μMにまで上昇した。この作用は外液中のカルシウムイオンを必要とするが、その濃度には依存しなかった。種々実験結果から、このATPの作用は、ATP受容体を介した受動的カルシウムイオン流入や細胞内カルシウムイオン貯蔵部位からの遊離などではなく,ATPの高エネルギ-燐酸結合を利用して、外液中のカルシウムイオンを積極的に取り込む機構であることが示唆された。 カルシウムイオンは種々細胞内で様々な情報伝達の役割を担っている重要なイオンで、常に精妙な調節機構により制御されているが、一旦その制御範囲を越えて高濃度になりすぎた場合、細胞死の原因となることが分かっている。又、水晶体やそれを取り囲む房水中のカルシウムイオンが増加すると、蛋白質の不溶化を促進させて白内障の誘引となることも示されている。一方,ATPは疾病や傷害により破壊された細胞や神経活動時に交感神経終末から神経伝達物質と共に放出されることが知られている。こうして遊離されたATPが,脈絡上板のカルシウムイオン取り込み機構を活性化し眼組織液のカルシウムイオン濃度を調節して、カルシウムイオンの正常な情報伝達機能を維持すると共に眼疾患を予防する役割を果たしているものと推察される。
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