極性が周期的に変化する変動磁場によって生じる誘導起電力の極性は生体内でも周期的変化をする。誘導起電力は組織の誘電率や導電率によって大きな影響を受ける。しかし組織の誘電率や導電率と周波数との関係についてはほとんど明らかにされていない。そこで交流を組織に与え、組織の誘電率と周波数との関係および電極分極について検索した。すなわちI.低中周波数の交流を血液にあたえた場合の誘電緩和現象の観測、II.電極分極と媒質内の電界強度の関係の検討である。 血液誘電率の周波数依存性については、以下の結論を得た。 α分散なるものは実在しない。従来α分散といわれたものは電極分極の寄与と考えられた。β分散が構造分散であることを確認した。さらにIontophoresisの阻害要因としての電極分極の影響について直流通電下の媒質内の電位差の変化について生理的食塩水、1%キシロカインを対象として観測した。その結果、直流通電により媒質内の電位差は低下し、媒質内の電位差の低下は電極分極に起因しているものと考えられた。 以上一連の研究により血液の誘電緩和現象は従来考えられていた1KHz以下で生じるα分散は媒質内に置かれた電極分極であり、低周波数領域での組織や血液の誘電率はそれほど高くないといえる。さらにこの電極分極はIontophoresisの効果の阻害要因になっているばかりでなく、針通電治療や経皮的通電刺激での通電効果にも影響している可能性が示唆された。特に歯科領域で行われるイオン導入でも電極分極がその効果を妨げていると考えられる。今後この研究を基礎的な面から進めていくことによってさらに効率的なイオン導入法の開発や時間変動磁場や交流通電による硬組織の誘導法につながる可能性も出てきたといえよう。
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