研究概要 |
1983年にBinning,Rohrerによって発明された走査トンネル顕微鏡(STM)は、実空間で個々の原子一つ一つを解像できる画期的な表面研究法として注目をあび、理学・化学・工学の広い分野で用いられている。 本研究の目的は、(1)現在の高性能FIーSTMをもとに低温で稼働する低温FIーSTMを開発しこれを用いて(2)Si(100)表面の相転移前後の原子像を温度と欠陥密度の関数として調べる(3)原子状水素・アルカリ金属(Li,Na,K,Cs)を吸着させバックリングを安定化した表面の温度変化を総合して、バックリングのダイナミクスと理論的な結果を比較するところにある。 本年度、既存のFIーSTM装置を改造して低温で稼動するFIーSTMの製作を行った。装置の、超高真空槽、ポンプ類、除振台、エレクトロニクス、FIM部等のほとんどの部分は現有のものをそのまま利用し、新たに購入したヘリウム循環式極低温冷凍機を改造した低温STMヘッドにより、トップフランジからつり下げられたSTM本体だけを、効率良く、しかもSTMの動作を妨げることなく冷却する事が出来る設計になっている。また、試料、探針交換装置や他の表面分析法との互換性を失わないよう注意してある。 この装置のSTMとしての性能を調べるために、Si(111)7x7再構成表面、Si(100)2x1再構成表面、Cu(111)1x1,Ag(110)1x1金属表面などを用いて、まず、室温における動作を確認した。冷凍機からのコ-ルドフィンガ-により伝えられる機械的振動を極力抑えるために装置の除振には特に注意を払ったため、逆に室温における除振特性が向上し、表面における凹凸が極めて小さい(〜0.01A^^°)金属表面の個々の原子をより鮮明にとらえることが出来た。次に、低温における性能のテストを開始し、現在も進行中である。
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