超微細な空間に液体ヘリウム3を閉じ込めるとき、次のような効果が期待できる。(a)空間の径が液体ヘリウム3の平均自由行程や超流動状態におけるコヒーレンス長より小さくなる時、サイズ効果が現れる。(b)液体ヘリウム3を閉じ込めた容器の壁近くにあるヘリウム3原子の数が系全体のヘリウム3原子数に比べて無視できなくなると、壁の影響が種々の物理量に現われる。(c)ヘリウム3系の粒子数が少なくなるにつれエネルギーレベル間隔が拡がるので、充分低温においては殻効果が現われる。我々は、銀箔の中にサイクロトロンによりヘリウム3イオンを打ち込み、これを熱処理して、ちょっけい50'Å'から150'Å'のヘリウム3バブルを生成した。この試料を冷却して1Kから0.015Kの温度領域で熱容量を測定したところ、次のような壁の効果が観測された。壁から第1層目の固体ヘリウム3の局在核スピンにより、第2層目の液体ヘリウム3は、0.015Kでもフェルミ縮退せず、古典ガスのごとく振舞っている。一方、ヘリウム3を0.9%含むヘリウム4を約32気圧に加圧して冷却すると、約0.07K以下で固体ヘリウムの中にヘリウム3の液滴が分散している系となる。この系の液体ヘリウム3の比熱はバルクな液体ヘリウム3の比熱と温度依存症がほぼ合っている。以上の2つの実験は壁が密度の高い銀であるか、密度の低い固体ヘリウム4であるかによって壁から第2層目の液体ヘリウム3の振る舞いが異なることを示している。銀の場合、第2層目の液体ヘリウム3バルクな液よりも強いパラマグノン効果を持つため、フェルミ温度が下がると推測される。これを明らかにする為、約100'Å'の白金微粒子を焼結し、壁の近くのヘリウム3原子数の比率が大きくなるような測定セルを作った。このセルを数ミリケルビンに冷却し、熱容量および磁化率測定を行う準備がほぼ整った。
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