今年度行ったことは大きくいって2つある。ひとつは中緯度との相互作用を入れると西半球の季節内振動の振幅が大きくなることを確かめたことであり、もうひとつはプリミティブ・モデルの定常解を求める方法を確立したことである。 まず第一の成果から述べる。球面上の線形プリミティブ・モデルを作成し、一般流のない場合、Itoh and Nishi(1990)の結果がこの場合も妥当することを確かめた。つまり東半球で励起された季節内振動は西半球にはいると速やかに振幅が減衰する。そこで次に中緯度に帯状流を与えると(傾圧不安定が起こるので必然的に非線形モデルとなる)、熱帯東半球から中緯度に伝播する波列が存在できるようになり、それが東半球で熱帯に戻る。そのため熱帯の季節内振動は東半球でも大きな振幅を持つようになる。特に日付変更線付近から出た波列はインド洋で熱帯に戻るのが見られたが、これは季節内振幅のインド洋における再励起との関連で興味深いものである。 同時に、上で見られた中緯度のロスビ-波列に対する傾圧波の役割を明らかにする目的で、プリミティブ・モデルの定常解を求めた。この研究は現在も進行中であるが、その過程でプリミティブ・モデルの定常解を求める方法を確立したことは重要な意義を持っている。つまりこの方法によって、安定な出常解はもちろん、不安定な定常解も、パラメ-タの変化とともにどのように変わるのかが求められている。この不安定常解は、大気の運動の性質、「カオティックななかの秩序」のひとつの根拠と考えられる。従って、大気の性質を理解するうえでの重要な道具が得られたと言える。
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