平成3年度は、世界的に分布する海洋の地殻活動特異点のうち、大西洋中央海嶺のSnakePit、東太平洋海膨、北フィジ-海盆、ラウ海盆、伊豆小笠原海嶺の海形海山、沖縄トラフの伊是名海穴・南奄西海丘などに産するウロコムシ科多毛類の外部形態観察などを行なった。これらのウロコムシは熱水・冷水域に特異な8亜科に分類される。中でも、Branchipolynoinae亜科のBranchipolynoe属3種:B.symmytilida;B.seepensis;B.pettiboneaeは興味深い地理分布を示した。B.symmytilidaは本属の中では最も小型の鱗を備え、鰓も第2節に示まる。文種はガラパゴス拡大軸や東太平洋海膨の熱水湧出域のシンカイヒバリガイに寄生する。これにたいし、B.seepensisはメキシコ湾の冷水湧出域や大西洋中央海嶺の熱水系のヒバリガイ類に寄生し、比較的大型の鱗を持ち、鰓は第3節に始まる。B.pettiboneaeも形態は前種に似るが、ラウ海盆や沖縄トラフなど太平洋西部に分布する。系統的にはガラパゴス・東太平洋海膨の種が最も新しく、他の2種が前種に比べて互いに近縁な関係にあると予想される(系統解析は4年度に行なう)。おそらく過去に単一の種であった本属は、大西洋の拡大や太平洋での拡大軸の消長により分断され、種分化し、種分化し、現在の分布状況が作りだされたものと思われる。同様な分布傾向が他のウロコムシ類にも見られるかを今後検討する必要がある。今年度の研究ではいくつか新種も発見され、現在その発表を準備中である。特に、ラウ海盆から採集された大型のウロコムシは体節数・鰓の形態などにおいて極めて特異で属や亜科の帰属が未だに不明であり、場合によっては、新属・新亜科といったレベルの発見になるかも知れない。
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