研究概要 |
国際学術研究現地調査(課題番号01041099)により,台湾の高山で蒐集した資料の研究を中心にして解析を進め,それが日本の高山性甲虫相の成立とどのようにかかわっているか,という問題に焦点を合わせて結果を求めた。要約すると、台湾の高山帯および亜高山帯の甲虫相は,中国南部ないしヒマラヤ系の種類によって占められる部分が大きいが,日本と密接な関連性をもつものもかなりの割合で含んでいることがわかった。しかし、朝鮮半島との関係はきわめて希薄である。これらの甲虫類は,おそらく中国大陸の中南部に起源をもち,日本南西部と台湾とへそれぞれ別個に拡散したもので,拡散の時期はおそらく更新世の最後の氷期であろうと推定された。緯度の低い台湾では,このような種類のほとんどすべてが、標高の高い場所へ押しあげられてしまっているが,より北方に位置する日本では垂直方向の分布域が広く,とくに洞窟などの地下の環境では,海岸の近くまで生息している。そのよい例として,台湾産のナガチビゴミムシ類やホラアナヒラタゴミムシ類を取りあげ,分類系統学上の処遇を明らかにするとともに,邦産種との関係や分布模様の成立過程について考察した。台湾の高山は孤立しているので,問題の解析が比較的やさしく,日本自体の問題を追究するうえで最良の傍証となる。この事実が確かめられた意義は大きい。南北に細長くつづく日本では,事情が台湾の場合よりはるかに複雑であるが,北海道の北部や東部では,ほとんど平地のような標高の低い場所に高山性の種類が分布し,しかもかなりの種分化を起こしていることがわかった。北へゆくほど生息域の標高が下がることは,植物についてよく知られ,動物でも多くの例が報告されている。しかし、地形の変化に乏しい低地で種分化が認められた例はほとんどない。なにが隔離要因として働くのかを確かめるのは容易ではないが,次年度以降の大きい課題になるだろう。
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