研究概要 |
北海道と東北地方に重点をおいて,資料の分析と考察を進めようとした当初の目的は十分に達せられたが,予想を超える成果がえられて,今後に大きい課題を残す結果となった。まず,北海道道東地方の低湿地に従来の知見からすれば,高山帶か道北地方の寒冷地にしか生息しない,と考えられていた甲虫群の新種の生息することがわかった(論文1).また,道央部の低山地で,これまで日高,夕張両山脈の高山帶のみから知られていた一群の新種が発見された(論文2).これらの発見は,少なくとも北海道では,いわゆる高山性甲虫類が低地にも分布する可能性を示し,それも単純な緯度差によるものではなく、過去の分布状況を反映するものであることが推察された。次に東北地方では,白神山地の調査が進んだ結果,眼の退化した種類の分布域が,これまでに考えられていたよりもはるかに北西方向へ延びていることが証明された。しかも垂直方向の拡がりが,予想よりはるかに大きいこともわかった。また,高山性といえるような甲虫類がまったく知られていなかった阿武隈で,最高点の大滝根山付近のドリーネの底から,尾瀬や吾妻山の亜高山帶のものに類縁の近い一新種が発見され,現在では高山帶や亜高山帶に局限されているようにみえる甲虫類も,それほど遠くない過去にはもっと広く分布していたことを示す,重要な証拠のひとつになった(論文3).この発見は偶然になされたものだったが,今後の研究の展開に大きい手掛りを与えるものである。さらに,同じような意味合いの重要性をもつ発見が,阿武隈山地の中央部と紀伊山地の北部でもあり,とくに後者は,これまでの知見では予測もできない重要なものとなった(論文5).全体として,1992年度は,きわめて実りの多い年であったといえるだろう。
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