研究概要 |
前年度までに収集した資料の整理と研究を中心に作業を進め,その結果を6篇の論文にまとめて公表した.また,これらとは別の2篇が現在,印刷中で,来年度の早い時期に出版公表される予定になっている.現地調査はごく短期のものを数回,実施したが,いずれも知見を補足する程度のものにとどめた. 今年度の研究成果でもっとも注目されるのは,東北地方の火山と非火山とでは甲虫相の構成が大きく異なり,非火山の甲虫相が先に成立したのち,その間隙を縫う形で新しい火山への定着が行なわれた.しかも新しい火山における分化は,おそらく後氷期になってから起こったのだろう,という事情が明らかになったことである.いっぽう,東北地方の北部には,朝鮮半島に深い関係をもつ種類が局在することも確かめられた.その結果として,高山性甲虫相は決して一度に成立したものではなく,成層的に形成されてきたものであること,最後の定着が行なわれたのは後氷期のことなので,現在われわれが見ている種分化の少なくとも一部は,せいぜい1万年以内になし遂げられたものであることが証明された.特殊な状態で昆虫の分化が急速に行なわれることを裏づける,重要な発見である.
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