研究概要 |
1.生態環境の強化に関して得られた主要な知見:(1)河川改修などに伴う河川の人工化の弊害は,主として何道型状の単純化によって生じる。したがって,できるだけ複雑な河川空間を作り出す河川構造物を設置することが,生態環境強化のための基本となる。(2)最低限の流量と良好な水質が確保され,人間を始めとする天敵からの保護が適切に行われることを前提とすれば,(1)避難場所,(2)摂餌場,(3)産卵場,および産卵場への(あるいは,産卵場からの)(4)回遊路,のすべてが確保されることが,魚類の生息環境としての必須条件である。(3)増水時の避難場所とは,増水時に流木や土砂が集積するような,流れの淀み場所である。また,平時の避難場所とは,植生やひさしに覆われた隠れ場所あるいは日陰である。(4)摂餌場とは,岸辺の植生が豊かな瀬や淵に他ならない。(5)多くの魚について,産卵場は人為的に作り出すことができる。例えばアユの場合,産卵に適した粒径の砂利を適地に投入するだけでも効果がある。(6)回遊路は,遡上用の魚道にしろ,降下魚対策としてのスクリーンやバイパスにしろ,技術的にはほとんど完成の域にある。 2.治水機能の維持・強化に関して得られた主要知見:良好な生態環境の一部は,増水時の局所洗掘によって得られる。生態環境の強化のための工夫がもたらす局所洗掘の,簡便な解析法を開発することが急務である。 3.水質保全機能の維持強化に関して得られた主要知見:礫間浄化施設など,河川の自浄作用を回復する工夫は種々開発されているが,その効果に多くを期待するには無理がある。河川へ流入する以前の段階での浄化設備の充実と岸辺の植生充実化こそ重要である。
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