イネ葯培養ではアルビノが多発するが、これらのアルビノの中には色素体DNA(ptDNA)に大規模な欠失が認められものがある。アルビノから誘導したカルス(20C)の欠失ptDNAは、rpoBを中央に含むヘアピン末端を有する線状分子(19kbp)であること、さらにこの分子がHead-to-Head・Tail-to-Tailの様式で連結した単量体から4量体までの分子種から構成されていた。また、他のカルス(10A)では、psbAからtrnYまでの約16kbpの領域のみの20C-ptDNAと同様な線状分子種から構成されていることが判明した。これらの欠失ptDNAのコピー数をサザンブロットのシグナルの強度から概算したところ、正常なptDNAを有する種子由来カルスのptDNAとほぼ同じレベルであり、細胞当たり数千コピー存在していた。このコピー数は、同一カルス内のミトコンドリアDNAのコピー数ともほぼ一致していた。また、カルスよりRNAを抽出し、ノーザンブロット解析を行った結果、残存している領域からと考えられる転写産物が確認された。20Cと10A-ptDNAに共通する領域は約3.5kbpのみである。また10A-ptDNAのカルス細胞を電子顕微鏡により観察したところ、正常ptDNAを有する種子由来のカルスと同様、多数のproplastidが確認された。以上の結果から、欠失ptDNAは色素対外からのRNA polymeraseにより転写され、共通して残存する3.5kbpからの転写産物が細胞内で機能している可能性が示唆された。さらに、2次元目にアルカリ変性条件下で泳動を行うことにより、正常なptDNAを有する種子由来カルスにも、末端がヘアピン構造を呈するDNAの存在が確認された。同様の結果は、葉緑体からも得られたことから、これからの分子種が葯培養によって生じる欠失色素体DNAの起源である可能性が示唆された。
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