研究概要 |
イヌ顎下腺細胞を用い、ムチン分泌機序に関わる細胞内情報伝達経路について検討し、以下の結果を得た。 1.ムチン分泌はα、β受容体作働薬、ACh、ionomycin、及びthapsigarginによって促進された。αアドレナリン受容体及びムスカリン受容体を介するムチン分泌は、細胞外Ca^<2+>の除去により著明に減少した。 2.AChにより、細胞内Ca^<2+>(〔Ca2+〕i)、細胞内Ins(1,4,5)P_3量、Ins(1,3,4,5)P_4量は上昇した。 3.TPAによりムチン分泌を認めた。TPA及びstaurosporineは、Ca^<2+>動態には影響を与えなかった。 4.Ryanodineは、持続性Ca^<2+>遊離を引き起こしたが、caffeineはCa^<2+>遊離を引き起こさなかった。 5.Cyclic ADP-riboseは、digitonin膜透過性細胞からCa^<2+>遊離を引き起こした。cADPRによるCa^<2+>遊離はhepa-rin及びryanodineにより抑制されなかった。 6.Achは、細胞外液から細胞内へのCa^<2+>流入を促進した。このCA^<2+>流入は、SK&F 96365,econazole,micona-zole及びLY-83583により抑制された。 7.Digitonin膜透過性細胞において、GTP-Υ-Sはムチン分泌を引き起こした。Ca^<2+>は、単独で弱い分泌しか示さなかったが、GTP-Υ-Sによる分泌を若干増強した。 8.AChはremodeling系及びGTP結合蛋白質を介するdenovo系を介して血小板活性化因子(PAF)の合成を促進した。PAFはNa^+,K^+-ATPaseを阻害し、細胞内Ca^<2+>を遊離させた。 以上、イヌ顎下腺細胞からのムチン分泌反応に関与する受容体と細胞内情報伝達経路について、ムスカリン受容体とそれに共役するCa^<2+>動員系の重要性を明らかにした。このCa^<2+>動員は、PI代謝回転促進による細胞内Ca^<2+>プールからのCa^<2+>遊離と、それが誘発するCa^<2+>流入及びCa^<2+>-induced Ca^<2+>release機構によることが示唆された。更に、PKC活性化を介する機序、GTP結合蛋白質及びPAFを介する機序の関与の可能性も示唆し、イヌ顎下腺細胞におけるムチン分泌に関わる細胞内情報伝達経路の一端を明らかにした。
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