研究概要 |
研究課題に関する図書文献の購入、各大学図書館等における資料収集と製本、これらの文献の検討と整理、諸研究会における発表と討論等により、以下のような研究上の新知見を得た。1.ドイツ語圏における近世自然神秘思想を確立したパラケルススのへルメス学的自然観は、人文主義的な古典研究に依拠するフィチ-ノやアグリッパ等と異なり、民間医療や民間伝承をヘルメス学によって再構成する試みである。2.パラケルススの追求した魔術とは,ポルタ等の唱えた合理的な自然魔術の伝統と袂を分かち、創造の機微に通じることによって自然万象を有効に活かし、かつ神の創造と奇跡の神秘にまで肉薄するものである。3.彼の合一論は,終末論的色彩の濃いものであるが,彼の自然研究が神秘的な神との合一を究極的な目的としていることは、後のヴァイゲルやベ-メの神知学を準備する上で決定的な思想史的意義を有している。4.ピエティスムスの代表的思想家アルノルトは,以上のようなパラケルススの自然神秘思想を徹底的に魂の問題に限定して理解し、彼を過激な教会批判者として評価する。これは、中世末の神秘思想運動デヴォチオーモデルナの思想的継承者であるピエティスムスが反自然の思想を基調としながら人間の内面世界において生起する魂と神との合一のドラマを追求したことと関連する。5.アルノルトの神秘思想上の意義は、神秘思想をキリスト教教義の中心に据えその歴史を文献学的に発掘し概観したこと、人間神化という神秘神学を確立したことに求められる。6.フランスのポワレやギュイヨン夫人のキエティスムの影響を強く受けた彼の思想は、しかし自己の神秘体験を告白する方向をとらず、むしろ啓蒙的立場から文献学的に神秘思想を論じた点が画期的である。7.魂の再生体験を個人の終末的事件と見なし、そこに宇宙的規模の再創造を予感したことが、アルノルトの思想に宇宙論的膨らみを持たせることになっている。
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