研究概要 |
炭素の第三の同位体であるフラーレンは、可視光存在下において一重項酸素を発生することによりDNAやタンパク質といった生体物質を破壊することが可能である。またガドリニウムを内包した水溶性フラーレン(Gd@C_<82>)が市販のGd-DTPAなどのキレート型造影剤に比べ数十倍もの強いMRI造影機能を発揮することが明らかとなるなど興味深い生理活性が続々と発見されている。ゆえに、現在フラーレンは物理分野のみならず化学及び医学分野においても脚光を浴びている。一方、細胞表面上に糖脂質や糖タンパクとして発現している糖鎖に関する研究が活発に行われ、癌の転移・毒素やウィルスの細胞感染など様々な生理現象に深く関与していることが明らかとなってきた。本研究では、高い生理活性を有する糖鎖をフラーレンに結合することで、臓器特異性を示すMRI造影剤そして特定の毒素あるいは生理活性タンパク質を選択的に破壊するような高機能医療材料を開発することを目的としている。本年度は糖鎖-フラーレン複合体合成に向けて、フラーレンに対する付加反応における最適な糖鎖誘導体の設計および生理活性糖鎖の効率的合成法の検討を行った。市販のグリカール(糖鎖1,2-不飽和体)に対して、温和な条件下でのフッ素化を可能にするSelectfluorと様々な求核体を反応させることにより、糖鎖のアノマー位の機能化及び2位にフッ素を導入する二段階の反応を、一段階の反応で、かつ高収率にて達成することを発見した。また、反応溶媒及び温度を制御することにより、生成する4つの立体異性体のうち一つのみを選択的に合成する方法も確立した。以上の結果により、フラーレンに対する付加反応に必要なアジド体をアノマー位に、高い生理活性を示すフッ素を2位にそれぞれ有する糖鎖の効率的合成を達成することができた。本年度の研究は平成15年4月1日より平成16年3月31日までフランス共和国Ecole Normale Superieureにおいて遂行した。
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