今日、我が国では国民の3人に1人がアトピー性皮膚炎、喘息、花粉症などのアレルギー性疾患に悩んでいるといわれている。従来、アレルギー反応の惹起には、外部から生体内に進入した抗原の存在が必要不可欠と考えられてきた。しかし、近年血清中のIgEが、抗原非存在下においてもアレルギー反応に関与している可能性が示唆され注目されている。本年度はin vitroの系を用いて、抗原非存在下でのIgE単独処置によるマスト細胞の脱顆粒反応能、およびマスト細胞内脱顆粒情報伝達系へのアクチン細胞骨格系の関与について詳細に検討し、以下の点を明らかにした。 1、High-Performance Liquid Chromatography(HPLC)systemを用いて、単量体IgEを精製し実験した。抗原非存在下において、単量体IgEは500-5000ng/mlの濃度で、マスト細胞内カルシウム濃度を増加させ、脱顆粒を誘起した。これらの単量体IgEの作用は、株化マスト細胞RBL-2H3だけでなく、マウス骨髄由来培養マスト細胞(Bone Marrow-derived Mast Cens : BMMC)においても確認された。 2、脱顆粒を誘起しない低濃度のIgE(50ng/ml)処置により、抗原非存在下において、マスト細胞内線維状アクチン量の増加が起こった。アクチン重合阻害薬Cytochalasin DはIgE(50ng/ml)による線維状アクチン量の増加を抑制した。さらに、これらのマスト細胞では、細胞内カルシウムが増加し、脱顆粒が誘起されたことから、低濃度IgEによるアクチン重合がマスト細胞脱顆粒反応において負の抑制機構の役割を担っている可能性が示唆された。 本年度の研究成果から、従来、外来抗原が生体内に進入して初めて惹起されると考えられてきたアレルギー反応が、外来抗原の存在なしに誘起される可能性が初めて明らかとなった。さらに、細胞骨格が細胞内のカルシウム情報伝達系の制御に関与していることが明らかとなり、これらは今後のマスト細胞内脱顆粒情報伝達系、およびアレルギー性疾患を理解するうえで非常に重要な知見であると考えられる。
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