本研究は(1)国際間における資本移動の完全性、(2)消費平準化行動、(3)小国(利子率が外生)を前提とした経常収支の動学モデルの説明力を検討するものである。これまでのこの分野における先行研究は、経常収支(CA)、純生産(国内生産から投資需要、政府支出を引いたもの)の2変数VARモデルで経常収支を予測しようと試みるものが大半であった。しかし、これら先行研究では、外生的ショックが消費行動に与える影響が考慮されていない。外生的ショックが消費行動に影響を与えることは、戦後2度にわたるオイルショック時における消費行動などを考えてみれば無視できないことは明らかである。例えば、消費平準化の観点から、将来の純生産が下落すると予測すれば、現在の消費を抑制し外国への貸付を増やそうとする結果、現在の経常収支は黒字になる。このように、自国の将来の純生産に対する予測は、現在の経常収支に反映され、経常収支の説明変数となるものと考えられる。 本研究は消費行動をより細部に研究することで経常収支の動学モデルの研究を試みるものである。一定条件下、以下の消費最適化問題を解いた場合、消費予想変化水準は予想利子率の関数になることが示される。このことは総消費のうち利子率(ここでは世界利子率)に影響を受けうる部分があることを示唆するものであり、消費平準化に利子率の変化が与える影響を考慮する必要があるものと考えられる。つまりは、利子率の変化が消費平準化行動に影響を及ぼすならば、経常収支も利子率の変化に影響を受けるものと考えられ、このような問題意識で研究を進めた。 その結果、異時点間の消費行動と株式市場収益率の関係を考慮したモデルを考えた場合、経常収支の異時点間動学モデルの説明力は格段に向上する事実が明らかとなり、このことは以下の事実を示唆するものと考えられる。 第一に、経常収支動向は、異時点間の消費平準化行動によって説明される。第二に、異時点間の消費平準化行動を仮定した上で、異時点間の消費行動が株価収益率に反応することを仮定したモデルは、現実の経常収支動向を非常に良く説明するものであった。このことは異時点間の消費行動が株式市場と密接に関連するものであることを示唆する。
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