研究課題
(1)日常の会話場面をVTRに収録して分析することにより、定住生活における社会的葛藤の諸相が明らかになった。また、広範なインタビューによりエピソディックな個人名と変異性の高い食物規制の全貌が明らかになり、狩猟採集文化の一特質を把握した。(2)定住地における居住様式、婚姻関係の変化を分析し、周辺環境の破壊にともなう集団の分散傾向を確かめることができた。(3)壮年期・青年期の男女のかなりの割合が賃労働に携わることにより、現金経済がますます浸透し、伝統的な社会関係に大きな影響を及ぼしていることが判明した。(4)グウィ方言、ガナ方言の基礎語彙約2000語を採取し、音声学的な観察と分析を行い、両方言の音韻組織の概略を明らかにした。また、基本的文型の収集と分類によって統辞研究の基礎資料を整備した。形態論的な分析からは、名詞の格組織、動詞の活用、語形成が日本語に似た類型論的な特徴をもっていることがわかった。(5)定住後、政府によって導入された学校制度により、サンの多くの児童と青年が小学校を経て、近隣都市の中・高校へ進学しつつある。これらの青少年を通じて流入する近代的価値観と平等主義的な価値体系との相克が明らかになった。(6)ヤギ牧畜の進展とそれにともなう社会関係の再編成のプロセスが明らかになった。(7)農耕は雨期に行われるので、農業への労働投下量・収穫量の定量的分析は現在も継続中である。すでに乾燥地に適応した在来の野生種数種を、サンの協力を得て実験的に栽培しているが、この試みの正否は今後、十分な雨量が得られてから検討する予定である。
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