研究課題/領域番号 |
04044164
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研究機関 | 東京国立文化財研究所 |
研究代表者 |
三輪 嘉六 東京国立文化財研究所, 修複技術部, 部長 (00222422)
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研究分担者 |
李 最雄 敦煌研究院, 保護研究所, 所長
朽津 信明 東京国立文化財研究所, 修復技術部・国際文化財保存修復協力室, 研究員 (50234456)
西浦 忠輝 東京国立文化財研究所, 修復技術部・国際文化財保存修復協力室, 室長 (20099922)
増田 勝彦 東京国立文化財研究所, 修復技術部・第二修復技術研究室, 室長 (40099924)
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キーワード | 中国 / 砂漠地帯 / 文化財保存 / 敦煌莫高窟 / 塩類風化 / 顔料の変色 |
研究概要 |
平成4年度に行った現地調査、協議の結果に則り、洞窟内からの分析用試料の採取を行った。これらの試料については、敦煌研究院と東京国立文化財研究所で、偏光顕微鏡観察、電子顕微鏡観察、エックス線回折分析、蛍光エックス線分析等によって調査し、その劣化形態について、鉱物学的、化学的に解析し、検討した。その結果から得られた主な知見は以下の通りである。 1.赤色顔料の黒変については、従来より鉛丹(Pb_3O_4)→酸化鉄(PbO_2)という酸化現象が報告されていたが、この点が再確認された。 2.赤色顔料の黒変について、従来報告されたことがない現象が明らかとなった。それは弁柄(Fe_2O_3)が硫化鉄(FeS_2)に変化していることが確認されたことである。酸化鉄は安定した顔料であり、これが硫化鉄に変化するというのは通常考えがたい。この様な化学変化が起きていることが確認されたのは新しい発見である。 3.緑色顔料について、変色はないが、化学的に変化していることが確認された。それはマラカイト(Cu_2Cl(OH)_3)がアントレライト(Cu_3SO_4(OH)_4)に変化していたのである。このことは、変褪色が見られない場合でも化学的分析調査を行う必要があることを示しているということができる。 4.壁画面への析出塩類について分析したところ、雨水が直接しみこむ窟では食塩(NaCl)が、河川の水がしみこむ窟では石膏(CaSO_4・2H_2O)が晶出していることが判明した。NaClについては、雨水が岩体中のNaClを溶かし、それが窟内で蒸発したときに再結晶したものであり、石膏(CaSO_4・2H_2O)については、大雨により氾濫した硫酸イオンに富む河川水が窟に入り込み、壁画下地に含まれるCaと反応して晶出したものであると考察された。
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