我々の研究目的は、具体的には、反強磁性遷移金属Mnクラスターの電子状態を求め、原子間結合についての知見を得ることである。ところで、Mnは3d遷移金属の中でも他と比べて奇妙な金属だといわれている。すなわち、凝集エネルギーが最も小さい、体積弾性率が最も小さい、原子半径が大きいことなどである。また、+1価のMnマイクロクラスターの魔法数は、単純金属や貴金属クラスターの魔法数と異なり、+1価の稀ガスクラスターの魔法数に近い。 スピン分極DV-X_α-LCAO法を用いて、中性および+1価のMn_N(N=2〜5)の電子状態を計算した結果、以下のことが明かになった。 (1)中性Mn^0_2クラスターの原子間距離はバルク値の約1.3倍になり、かなり大きい。電子配置は孤立原子の3d54s^2に近い。(2)Mn^0_3、Mn^0_4、Mn^0_5クラスターも、Mn^0_2クラスターより原子間距離は小さくなるが、やはりバルク値より大きい。(3)+1価のクラスターの場合は、電子状態は金属的になる。(4)ただし、Mn^+_2、Mn^+_4クラスターの原子間距離はバルクの値より大きいが、Mn^+_5クラスターは小さい。(5)Mn^+_3クラスターは、Mn^+_4とMn^n_5クラスターの中間的な様子を示す。 計算においてMn_5クラスターはピラミッド形を仮定したが、正五角形であるとのESRの実験もあり、さらに、まだMn^0_6およびMn^+_6クラスターの電子状態を求めていないので、現段階では断定的なことを言えないが、以上の結果は、+1価のMnクラスターの質量分析実験における魔法数5に対応していると思われる。なお、上記の研究成果については、裏面に掲げた文献において発表した。
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