アルツハイマー病脳内蓄積物質の形成機序

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04268104
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 立石 潤 九州大学, 医学部, 教授 (70033305)
• 研究分担者: 山口 晴保 群馬大学, 医療技術短期大学, 教授 (00158114) ; 貫名 信行 東京大学, 医学部, 講師 (10134595) ; 石浦 章一 東京大学, 応用微生物研究所, 助教授 (10158743) ; 勝沼 信彦 徳島文理大学, 健康科学研究所, 所長 (50035375) ; 中村 重信 広島大学, 医学部, 教授 (30026843)
• キーワード: アルツハイマー病 / 老年痴呆 / 神経原線維変化 / PHF / タウ蛋白 / 老人斑 / Abeta蛋白

研究概要

アルツハイマー病(AD)の脳内に沈着するAbeta蛋白の産生についての研究が続けられた。その前駆体であるAPPの代謝には分泌系と細胞内蓄積系が知られているが、分泌系には細胞内の情報伝達系が関与し、C-キナーゼ活性促進剤のTPAを加えると分泌型APPが増加し、活性抑制剤を加えるとAPPの分泌が抑制されることが判った。APPとC-キナーゼとの関連はレセルピン投与ラットでAPPの分泌が減ることからも明かとなった。APPからAbeta蛋白が切り出される部位の合成ペプチドに対する抗体を作成し、家族性AD(FAD)で検討したが、Abeta直前でのAPPの切断はFADでは増加していなかった。これはAbetaの沈着が、必ずしも直前の切断が増加するためではないことを示唆する。またAbeta直前のエクソン15に関しては、ラットの一般臓器にはこれを欠ぐAPP677が存在するが、脳には殆ど存在しないことも判った。その他APPがシナプス膜にも存在すること、APPの分泌型にN結合糖鎖が多いこと、APPのプロセシングに関連したプロテアーゼの1つであるカテプシンBがアストログリアに多いことなどが明らかとなった。
ADの他の重要な所見であるPHFを構成するタウ蛋白質のリン酸化酵素としてTPKI,TPKIIを発見したが、TPKIのアミノ酸配列がグリコーゲン合成酵素をリン酸化するGSK3betaと同一であることが判明した。これがAbeta蛋白と共に培養神経細胞の細胞死にも関与することが示された。さらにリン酸化タウ蛋白から脱リン酸化を行なう酵素としてカルシニューリンとPrP-2Aが同定された。その他、AD脳ではカルボキシメチルトランスフェラーゼ(CMT)のmRNA、タンパク共に増加していることが判明し、今後の発展が期待される。
本年度の世界的なニュースとしてタウ遺伝子欠損マウスが広川らにより作成された。これによりタウ蛋白が軸索の微小官領域の形成および安定化に重要な働きをしていることが判りつつある。

研究成果

• [文献書誌] Ohgami T: "The rat central nervous system expresses Alzheimer's amyloid precursor protein APP 695,but not APP677(L-APP form)." J.Neurochem.61. 971-979 (1993)
• [文献書誌] Tanaka S: "Age-related changes in the proportion of amyloid precursor protein mRNAs in the gray matter of cortex." Neurosic.Lett.163. 19-21 (1993)
• [文献書誌] Takeda M: "Chromaffin cells express Alzheimer amyloid precursor protein in the same manner as brain cells." Neurosci.Lett.(in press).
• [文献書誌] Fukushima D: "Activation of the secretory pathway leads to a decrease in the intracellular amyloidgenic fragments generated from the amyloid protein precursor." Biochem.Biophys.Res.Commun.194. 202-207 (1993)
• [文献書誌] Tanaka H: "Absence of linkage disequibrium at amyloid precursor protein gene locus in Japanese familial Alzheimer's disease with 〓〓Val-Ile mutation." Neurosci.Lett.162. 63-66 (1993)
• [文献書誌] Yamaguchi H: "Localization of Alzheimer amyloidbeta protein precursor and its relation to senile plaques." Gerontol.(in press).
• [文献書誌] Shimokawa M: "Identification of amyloid precursor protein in synaptic plasma membrane." Biochem.Biophys.Res.Commun.196. 240-244 (1993)
• [文献書誌] Furiya Y: "Okadaic acid enhances abnormal phosphorylation on tau proteins." Neurosci.Lett.156. 67-69 (1993)
• [文献書誌] Ishiguro K: "Glycogen synthase kinase 3beta is identical to tau protein kinase I generating several epitopes of paired helical filaments. 221GC09:FEBS Lett." 325. 167-172 (1993)
• [文献書誌] Fukunaga K: "Dephosphorylation of autophosphorylated Ca^<2+>/calmodulin-dependent protein kinase II by protein phosphatase 2C." J.Biol.Chem.268. 133-137 (1993)
• [文献書誌] Harada A: "Targeted disruption of the tau gene results in alteration of microtubule organization and stabilization in small caliber axons." Nature. (in press.).