線虫C.elegansにおいては、ncl-1(-)の細胞はその核小体がncl-1(+)の細胞より大きいため、生きた個体の顕微鏡観察により、各細胞のncl-1に関する遺伝子型を判別することが可能である。陰門形成においてlet-23遺伝子の発現が陰門またはその前駆細胞(VPC)で必要であるか否かを知るため、このncl-1遺伝子をマーカーとするモザイク解析を行った。そのため、ncl-1(+)及びdpy-1(+)遺伝子を含むIII番染色体断片sDp3を持つ株に染色体外let-23(+)因子を導入し、γ線照射により、両因子の結合したものを作成、選択した。染色体上にncl-1(-);dpy-1(-)変異とともに陰門形成不能のlet-23(sy97)変異をもち、更に上記のsDp3-let-23(+)因子を染色体外に持つ株を作成した。この株の子孫の中には体細胞分裂における染色体外因子の確率的欠落により、染色体外因子を含まない細胞を部分的に持つモザイクが生ずる。non-Dpyの子孫中完全または不完全な陰門をもつ個体を調べた結果、3つ以上のNcl-1(-)の細胞が含まれる陰門は見出されなかった。染色体上の遺伝子型がlet-23(+)でsDp3をもつ個体の子孫を用いた対照実験では、ある頻度で3ケ以上のNcl-1(-)の細胞を含む陰門が見出された。これらの結果は、陰門形成のためには、VPCにおける野性型let-23遺伝子の存在が必要であることを示唆している。 C.elegansのもう一つの受容体型チロシンキナーゼをコードするkin-8遺伝子については、Northern解析によりmRNAと考えられる分子が少なくとも3種類検出された。この中で最も大きい約3.3kbのmRNAに対応するcDNAの全塩基配列を決定した。また、対応するゲノム遺伝子のほぼ全塩基配列を決定した。この結果、kin-8遺伝子産物は、膜貫通領域のN端側に免疫グロブリン様領域及びクリングル領域をもつ902アミノ酸からなり、NGF様因子の受容体として働くことが示唆された。
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