研究課題
1992年度の研究実績を代表するものとして四つの成果を記す。1.佐々木力は「科学技術論の医学史モデル」という表題のもとに研究発表を行い、古代ギリシアにおける誕生以来、本来善いものであると考えられてきた科学技術が、原子兵器を作り出し、環境破壊の道具ともなり、類としての人間の絶滅を可能にしている現在では、最早そのようには考えられないこと、この時、科学技術のモデルとなるべきものは単なる客観的な学問ではなく、心身を癒す術である医術であるべきこと、したがって、科学技術は社会の病を癒す術として据え直さねばならぬことを論じた。2.細井雄介は「芸術の半透明性」という表題のもとに研究発表を行い、「芸術は実在の模倣である」というアリストテレス以来のテーゼに言及しつつ、芸術は実在とわれわれとの間の媒体であること、しかし、その際、あまりには透明に、なんの抵抗もなく、実在を出現させるものは真の芸術ではないこと、芸術は半透明性であることによって、つまり、解り難いことによって、それ自身に固有の実在性を現すものであることを論じた。3.熊田陽一郎は「ディオニュシオス・アレオパギテースの神秘思想」という表題のもとに研究発表を行い、神は万物の原因であるから、万物は神の現れであり、したがって、岩も露も虫も神の名である、という汎神論的世界肯定の思想を展開して、機械論的自然観に対するアンチテーゼを示唆した。4.岩田靖夫は「反駁的対話の論理構造」という表題のもとに研究発表を行い、現代世界にあまねく見られる人倫的秩序の崩壊の再建には、ソクラテス的対話に立ち戻らねばならぬこと、ソクラテス的対話とは異なる信念の持ち主たちの間の止むことのない開放的対話であることを論じた。5.以上四つの研究は、それぞれ、技術、芸術、宗教、倫理に焦点を合わせて、本研究のテーマを多角的に照明したものである。
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