研究課題
今年度は、「全体主義」と「芸術」との関係を考えるための準備作業として、まず「全体主義」とは何であるかについての歴史的認識と哲学的・社会学的分析を行った。その結論は次のようなものである。「全体主義」を考察するときに特に重視されなければならないのは、政治形態(国家)と社会形態(大衆の生活意識)との関係である。19世紀までは、国家と社会とは独立した領域をそれぞれ形成していた。なぜなら、「共同体」という大衆の生活形態が国家からは独立して存在していたからである。ところが19世紀から20世紀にかけて、共同体の崩壊が起きた。ここに国家が社会をまるごと包含し、支配してしまうという20世紀独特の新しい可能性が生まれた。これを実現したのが「全体主義」なのである。従って、我々が最も重視する「全体主義」の定義は、カール・シュミットによる「国家と社会の完全な同一性」というものである。こうした「全体主義」像を、芸術の問題と結び付けるときに重視されるのが「メシアニズム」(救世主待望)の問題であろう。もはや、共同体が不可能になった混沌のなかで、人々は新しい「社会」のイメージを作らなければならなくなった。その性急な解決を求めたとき、国家の強い指導に包含される社会のイメージ、つまり全体主義が出てくるわけである。芸術家もまた、この新しい社会イメージの探究と何らかの関わりを持って活動してきたと言うことができるだろう。そして、もちろんそれは芸術家のみならず、思想家や知識人全体の問題でもある。では、その具体的な関わりがいかなるものであったかが次の問題になるわけだが、この問題についての考察は、来年度の課題となろう。
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