本研究は、比較的大きな塑性ひずみの下でぜい性的な破壊現象を伴う建築鋼構造部材の塑性変形能力を解明することを目的としている。本年度は、この研究を実行するための中枢となる疲労試験機の据付および試運転調整を完了した。先ず、この疲労試験を用いた予備実験として、小形試験片の引張載荷実験を行い、応力集中部からのき裂発生ひずみに関する貴重なデータが得られた。また、破壊が生じやすいと考えられる冷間加工された高張力鋼板と比較材としての無加工の高張力鋼板の引張破断試験を行い、冷間加工により、破断までの限界塑性ひずみが著しく低下することを明かにした。今後行う本実験においては、これらのデータに基づいて実験変数を設定する計画である。 今後の課題としては、建築構造物の中で最も破壊の危険にさらされる柱梁接合部をターゲットとし、この柱梁接合部を含んだ部材試験体に疲労試験機を用いて繰返し負荷を与え、破壊に至るまでの塑性変形量を測定する。一方、今年度に行った小形試験片の実験によって得られた破壊に至るまでの限界塑性ひずみに基づいて上記試験体の塑性変形能力を予測算定する。両者を比較することによって、限界塑性ひずみを用いた破壊のクライテリアを構築する。なお、溶接接合部においては、破壊面が溶接熱影響部を通過することになり、実構造物ではその影響が無視できないと考えられる。そこで、熱影響部の材質については、金属顕微鏡(平成5年度新規購入予定)を用いて組織変化およびその領域長さを測定し、破壊条件の中に組み入れる。
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