文化財を構成する代表的な素材である銅、ブロンズ、銀および大理石のテストピースを文化財の環境中に暴露し、同一地点で降雨、ミスト、窒素酸化物、硫黄酸化物を捕集してイオンクロマトグラフィーにより主として陰イオン濃度を継続測定した。測定点は東京国立文化財研究所(東京都)、京都国立博物館(京都府)、高徳院(神奈川県・鎌倉大仏)および郊外(東京都国分寺市)の4地点を選んだ。暴露試験は1部を除いて平成4年8月から開始した。汚染因子の測定は、降雨は期間中の各雨を1ミリごとに8ミリまで分取してC1、NO3、SO4イオン濃度の変動を求めた。ミストおよびガスは30日補集による継続測定を行いそれぞれの汚染濃度の累計をテストピースに対する被曝量とした。テストピースの変化度は3ヵ月毎に重量とX線回折による表面の組成の変化を測定した。 約200日経過した現在までの結果は、金属テストピースでは肉眼で表面の変色を観察できるが、X線回折では生成物質を同定するまで安定した測定結果は得られていない。大理石テストピースは、屋外で重量の減少が、屋内で増加の傾向が顕著に認められた。X線回折の結果は屋外では新たな物質は認められず、屋内で硫酸カルシウムを主体とする数種の結晶の存在が確認されている。雨水中の陰イオン濃度は降雨条件に大きく左右され必ずしも初期降雨に汚染が集中されない。同一地点で同時に測定した雨水とミスとのイオン濃度はC1、NO3に対し雨水ではSO4イオンが高く、ミストでは低い傾向がみられた。汚染物質とテストピースの変化量は、暴露期間の不測により充分な考察に至っていない。屋内の大理石テストピースに対するミスト中のイオン濃度との関係を検討中である。
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