研究概要 |
前年度までにAlteromonas sp.No8-R株が増殖過程を通じ少なくとも4種類(a,b,c,d)の溶菌酵素を産生し、このうちa,b,cは減数期に菌体外に分泌されるいわゆる自己融解酵素であり、dのみが対数増殖期から定常期にかけて菌体外に分泌される他とは異なる特異的な溶菌酵素であることを明らかにした。 そこで本年度は溶菌酵素dの産生条件の検討と単離・精製を試みた。得られた主な成果は次の通りである。 (1)溶菌酵素dの産生条件 基礎培地にピルビン酸ナトリウム(0.5%)とトリス(0.5%)を添加した培地で25℃、24時間振盪培養することにより溶菌酵素dの最大生産が得られ、他の溶菌酵素の生産を低く抑えることが出来た。 (2)溶菌酵素dの単離・精製 (1)の条件で大量培養して得た培養上清を出発材料として限外濾過濃縮、硫安塩析、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーを行った。その結果、最終的に活性の高い単一のピークが得られ、PAGEによっても、ほぼ単一なバンドが確認された。得られた溶菌酵素dフラクションは基質であるM.luteusの生菌細胞と加熱死菌細胞ともにほぼ同等に分解活性を示し、この点は他の溶菌酵素(a,b,c)とは異なっていた。また、ゲル濾過とPAGEの結果から推定分子量が5,000以下と非常に小さいことが判明した。このことから酵素ではなく、何らかの作用で細菌細胞壁を溶解し得るペプチド系物質の可能性も考慮する必要が生じてきた。これは非常に興味ある新知見である。現在、本物質の諸性状を検討中である。 (3)Alteromonas sp.No8-R株の走化性 本菌株が他の細菌細胞に近づき、溶菌して分解物を利用する性質をもつことから、認識物質の特定を試みた。その結果、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、2-ケトグルタル酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウムなど過酸物分解性物質に強い走性を示した。
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