研究概要 |
本年度の研究によって得られた主な成果は次のとおりである。 1.人工海水中での溶菌酵素産生菌の挙動 溶菌酵素産生菌 Alteromonas sp.No.8-R株と同感受性菌Moraxella sp.S-29株を滅菌人工海水中に懸濁し、両者の生菌数の変動を調べた。両者の混合培養系ではS-29株の生菌数が時間の経過と共に減少した。一方、同混合培養系中でのNo.8-R株の生菌数はS-29株の菌濃度に依存し、S-29株生菌数が10^6CFu/ml以下では増加しなかったが、No.8-R株の生存日数は単独接種の場合に比較し、有為に延長することが明らかになった。また、光顕観察から、混合培養系において、No.8-R株は溶菌感受性菌細胞に接近し菌塊を形成し、溶菌することが示唆された。 2.溶菌物の性質 前年度までの結果から、Alteromonas sp.No.8-Rの産生する4種類の溶菌酵素(a,b,c,d)のうち、分子量の最も小さいdが酵素でない可能性が示唆された。そこで、同株の培養上清から、限外濾過、エタノール沈澱およびゲル濾過により得られたdに相当する部分精製標品を得て若干の性質を調べた。その結果、本物質は60℃、10分の加熱でも活性が残り、尿素処理にも安定で、推定分子量が2.5〜3.5kDaであった。これらの性質から、本物体は溶菌酵素ではなくbacteriocinの一種と考えられ、現在、その精製と作用機序の解明を継続中である。 3.細菌細胞のプロトプラスト化 Alteromonas sp.No.8-R株の溶菌酵素と溶菌物質による細菌細胞プロトプラスト化を試みた。海洋細菌Alteromonas sp.1055-1株の浸透圧調節条件を検討し、シュクロース0.07Mとトリス0.05Mを添加した人工海水中で両物質を作用させた結果、溶菌物質でプロトプラスト形成が認められた。ただ、非常に不安定で、今後、諸条件の検討が必要である。
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