研究概要 |
貧栄養環境である海洋での生存手段として他の細菌細胞を溶解・利用して増殖できる海洋細菌に着目し、その溶菌作用機序を解明し、溶菌酵素又は溶菌物質の生態学的意義と応用を試みた。得られた主な成果は以下のとおりである。 1.沿岸各種試料から溶菌活性を有する海洋細菌を多数分離し、簡易同定を行った結果、Alteromonas,Alcaligenes,Vibrio,Cytophagaなど多岐にわたることが判明した。 2.分離菌株中より溶菌活性のもっとも強いAlteromonas sp.No.8‐R株を供試し、発育に伴う溶菌酵素産生動態を調べたところ、本菌株は発育段階によって異なる4種類の溶菌酵素(a,b,c,d)を産生した。このうち、dは対数期から定常期にかけてのみ培養液中から検出され、bは定常期までは菌体内に存在し、減数期に入り菌体外に分泌された。aとcは減数期にのみ培養液中から検出された。 3.No.8‐R株培養上清から溶菌酵素の精製を試み、溶菌酵素bが部分精製された。bは分子量約74kDaで自己融解酵素の一種と推定された。 4.No.8‐R株と同株の溶菌活性に感受性を示す海洋細菌Moraxella sp.S‐29とMicrococcus sp.M‐14株を滅菌人工海水中に懸濁し、生菌数の変動を調べた。感受性菌株の生菌数はいずれも時間と共に減少した。一方、No.8‐R株生菌数は感受性菌の菌濃度が一定以上(10^6CFu/ml)で増加し、それ以下では増加は観察されないが、生存日数の延長が認められた。これらのことから、No.8‐R株の溶菌酵素のうち、dが他細菌細胞を溶菌する主体である可能性が示唆された。 5.No.8‐R株培養上清からdの精製を試みた。現段階では部分精製ながら分子量2.5〜3.0kDaで、60℃、10分の加熱で活性が残り、尿素処理に安定であることなどから、dは酵素ではなく、bacteriocinの一種である可能性が示唆された。
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