研究概要 |
コムギのヒストンH3遺伝子の細胞周期のS期特異的発現をモデル系として,植物における遺伝子発現制御に関わるシスエレメントとトランス制御因子との関係及び因子間相互作用についての研究を進めた。ヒストンH3遺伝子のS期特異的発現を付与するシスエレメントとして推定されているヘキサマー配列とオクタマー配列に人為的突然変異を導入し,この改変遺伝子を持つイネ培養細胞の形質転換体を作出した。アフイディコリン処理法による細胞分裂の同調系における転写産物の解析からH3遺伝子のS期特異性は上記2つのシス配列の協調的な働きによっていることが明らかになった。ヘキサマー配列に結合する因子として,既にその構造を明らかにしているHBP-la(17)とHBP-lb(C38)について,その機能をリポーター遺伝子とエフェクター遺伝子のコトランスフェクションによる一過性的発現系を用いてしらべたところ,HBP-la(17)はH3遺伝子のプロモーター活性に抑制的に働くことが示された。一方,オクタマー配列に結合する核タンパク質として,ssDBP-1とssDBP-2が同定された。これらはいづれも単鎖DNAと結合し,前者はコード鎖を,後者は非コード鎖を認識した。ssDBP-2については,そのcDNAの塩基配列からタンパク質の一次構造として,RNA結合タンパク質に存在するRNPモチーフを2ヶとプロリンや酸性アミノ酸に富む領域を持つ特徴的な核タンパク質であることが明らかとなった。このタンパク質の転写因子としての機能解析は現在進行中である。また,ssDBP-1のcDNAのクローン化についても引続き努力している。これまでの研究結果を総合的に考える時,HBP-1a及びHBP-1bとオクタマー結合因子との相互作用においてコファクターの存在が仮定された。このコファクターのcDNAをクローン化すべく、West-western法や酵母における発現系を利用したtwo-hybrid系などを使って研究中である。
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