研究概要 |
点変異によって家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の病因となるトランスサイレチン(ttr)遺伝子と、ES細胞に性質が類似し、かつ培養の容易なF9細胞を用いて、遺伝子標的組み込み法を検討した。 1.挿入変異導入法の検討:5.9kbのttr遺伝子の第2エクソンにG418耐性遺伝子(neo)を挿入し、3'未満に単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-tk)を接続したベクターを基本とした。ベクター線状化後にHSV-tk遺伝子の下流が長いほど、ガンシクロビール(GANC)による選択効果が高まった。非相同組換え株に挿入されたベクターDNAは、末端から順次欠失した構造であった。これより、ベクターDNAは細胞へ導入後に、末端から速やかに分解されることがわかった。ベクター末端部にヘアピンループ構造のOligonucleotideを連絡したところ選択マーカーの効率が上昇しベクターの安定性が高まったものと考えられた。 2.点変異導入法の検討:5.9kbのttr遺伝子の第2エクソンにFAP患者と同一の点変異を導入し、neo,HSV-tk遺伝子を第2イントロン内に挿入し、選択マーカー上流の3kbの領域をマーカー下流にも配置して繰り返し構造にした。このベクターを細胞へ導入後、相同組換えを起こした株をG418耐性株から単離し、さらにその後の培養過程で、繰り返し配列間での組換えによって選択マーカーを欠失して点変異のみが導入された株をGANC耐性株から単離した。GANC耐性株の中には、組換えを起こさずにHSV-tk遺伝子を保持したままの株が多数あり、これらの株では、HSV-tk遺伝子のプロモーター領域がメチル化されていることがわかった。繰り返し配列間での組換えは、ベクターDNAをゲノムの任意の部位に挿入した5つの株でも認められ、本手法が種々の遺伝子座にも応用可能なことが示された。
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