研究概要 |
平成4年度における新しい知見を以下に列挙する。 1.平成3年度までにクローニングされていた3種の強免疫原性ヒト悪性黒色腫抗原遺伝子(D-1,A-1,E-1)のうち、D-1に関しては完全に、A-1に関しても、ほぼ完全に核酸配列を決定した。いずれも既報告の哺乳動物由来蛋白をコードする核酸との顕著な相同性は認めなかった。 2.組み換え蛋白発現のシステムを変更し、融合蛋白としてではなく、組み換え蛋白部分のみを精製しうるようになった。すなわち、プラスミドをpMALに変更し、まずマルトース結合蛋白質との融合蛋白を誘導し、アミロース・レジンで精製したあと、FactorXaにてマルトース結合蛋白を切断し、組み換え蛋白を得た。この蛋白をマウスに免疫し、D-1抗原の蛋白レベルでの生体内分布を知るに必要な単クローン性抗体を作成中である。 3.遺伝子レベルでのD-1抗原遺伝子の発現を生体内において立証するため、外科的に切除した黒色腫標本を用い、In-Situハイブリダイゼーションを行った。検索した20例全例の黒色腫に陽性で、その発現にはheterogeneityがあり、転移巣と原発巣での明らかな差異は現在の症例数では認めなかった。また母斑細胞性母斑では10例中9例が、有刺細胞癌,基底細胞上皮腫,脂漏性角化症では検索した全例が陰性であった。黒色腫周囲の緑維芽細胞,角化細胞においても陰性であり、このことからD-1抗原遺伝子の発現は、かなり黒色腫に制限されたものであること、および、D-1抗原遺伝子が実験操作中に生じた何らかのartifactではなく、実際に生体内で発現されていることが立証された。
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