ヒト結腸がん細胞株LS180を用いて作成した単クローン抗体のうち、Tn抗原を認識する抗体、MLS128のエピトープについてさらに詳細な研究を行なった。 先にヒツジ顎下腺ムチン(OSM)を用いて、Ser^*-Thr^*-Thr^*(^*印はGalNAcの結合を示す)がエピトープであることを見出したが、このようなクラスター構造を2箇所にもつ、ヒト赤血球グリコホリンAを用いてエピトープを調べた。先ず、グリコホリンAが溶血性パストゥーレラ菌の産生するグリコプロテアーゼによって効果的に分解されることを見出した。糖ペプチド断片を調べた結果、グリコホリンAがGalNAc-Ser/Thrの3連および4連のクラスター構造をもつことが分った。従来は3連と6連の構造をもつといわれていた。糖ペプチドをアッセイプレートに固相化し、シアリダーゼとβ-ガラクトシダーゼで消化したのち、MLS128との反応性を調べた。その結果、3連または4連のクラスター構造を含む糖ペプチドのみが抗体と強く反応し、分散して存在するGalNAc-Ser/Thrは事実上抗体と反応しなかった。3連と4連のクラスター構造の抗体との結合性は良く一致した。これらの知見は先にOSMについて得ている知見と良く一致している。 同じ結腸がん細胞を用いて作成した、抗シアリルTn抗体についてはOSMを用いてエピトープの解明を行なっており、すでに、抗Tn抗体同様、Sia-GalNAc-Ser/Thrの何らかのクラスター構造が真のエピトープであることを示唆する結果を得ている。 ムチン型糖タンパク質は、以上のように、抗体を用いて詳細な免疫化学的研究を行なうことにより、従来の知見とは異なる特異な構造をもつことが明らかになった。Tn、シアリルTn構造は癌細胞で強く発現していることも見出したので、それらに対する抗体の応用が期待される。
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