典籍聖教に捺印されている蔵書印や、経函の墨書銘から、それら書跡の伝来を究明しようとする研究であるが、本年度は石山寺深密蔵聖教について資料収集・整理を行った。 石山寺には、校倉聖教、匂聖教など江戸時代以前より一群として伝来してきたものの他、大正時代に山内の各院坊に分蔵されていた典籍聖教を本坊に集めた深密蔵聖教がある。深密蔵聖教は、旧函111箱、新造函11箱、および空旧函1箱からなる。旧函全112箱のうち、経函墨書銘のあるものが97箱あるが、経函墨書銘と、所収典籍聖教類に捺印されている蔵書印、蔵書目録等の照合から、密蔵院旧蔵42箱、法輪院旧蔵17箱、円乗院旧蔵4箱、明王院旧蔵7箱、宝性院旧蔵1箱、湖月坊旧蔵1箱が確定できる。函間での典籍聖教の出入りがあるため、その点に留意しつつ、より多く確定作業を進めたい。 法輪院墨書銘函には、墨書銘を抹消したものが8箱あるが、これには他院坊の典籍聖教が収められており、これは大正の整理時に空箱となっていた経函を利用したものと考えられる。例えば、第5函などに吉祥院のものを、第7函に明王院、第16函に密蔵院、第42函に梅本坊のものをまとめて収めたようである。また墨書銘のない経函も、書跡捺印の印章からみると、第52、63、104函には密蔵院、第105函には宝性院、第106函には世尊院、第110函には宝性院の典籍聖教がほとんどを占め、それら各院坊の書跡がまとまったかたちで収容されたとみられる。 以上が、4年度の成果概要であるが、今後、未確定経函の確定作業と各院坊ごとの典籍聖教の特色をみてみたい。
|