寺院に所蔵されている聖教典籍類には、その所蔵を示す印章が捺印される場合も多い。その印章は、寺院名・院坊名・僧名などを示すが、それらの印章によりその聖教典籍類の伝来を知ることができる。本研究の目的は、石山寺深密蔵聖教を対象として、捺印されている印章の整理により、江戸時代における深密蔵聖教の石山寺寺内の各院坊での所蔵状況を明らかにすることにある。深密蔵聖教とは、従来石山寺内各院坊に分蔵されていた聖教典籍類が、大正時代に本坊に一括されたものである。今年度は、既刊の深密蔵聖教目録(『石山寺の研究 深密蔵聖教目録』)による経箱墨書銘と各聖教捺印の印章の分析などの、昨年度も行った作業の継続と確認を行うとともに、さらに江戸時代末の密蔵院聖教目録の翻刻の作業を行い(目録は『奈良国立文化財研究所年報1993』に抄録)、そして両者を対照する作業を行うことにより、まず密蔵院の江戸時代末の聖教の所蔵状況を明らかにした。その上で、密蔵院聖教以外の聖教についても、江戸時代末にどこの院坊に所蔵されていたかをできる限り確認した。なお、寺外所在の石山寺関係の聖教典籍類についても、一部現地調査を行った。 以上の作業を踏まえて、確定した江戸時代末の石山寺寺内での各院坊の聖教典籍類の所蔵状況を、「石山寺所蔵の深密蔵聖教について-現存経箱関係資料の整理から-」(『文化財論叢2』所収)としてとりまとめた。
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