研究概要 |
筆者らは、これまでに、(1)β-置換エチルコバルト錯体の固相特異的かつ一方向的β→α光異性化反応、(2)光学活性アルキルコバルト錯体の固相・結晶相光ラセミ化反応等を見いだしてきた。また、その際、軸配位子の性格の違いにより、反応速度が10000倍もの差異を生じる。この様な反応速度の極端な差異は液相反応では見られず、固相特異的現象であることを明らかにしてきた。今年度は下記の事柄について検討し、興味ある結果が得られたので報告する。 固相光ラセミ化反応における固相特異性:まず、その固相特異的現象を明らかにするために、各種の軸配位子を配位した1-(Methoxycarbonyl)ethyl,1,2-Di(methoxycarbonyl)ethyl錯体を合成し、それらの光ラセミ化反応を検討するとともに、既に解析されている結晶構造及び新たに反応を行った錯体の結晶構造解析結果に基づいて考察した。その結果、水素結合等の分子間相互作用による反応基の非対称な拘束がみられる場合に反応速度が極端に小さくなることが明らかになった。 結晶格子に制御されたβ→α不斉光異性化反応:β-置換エチル錯体のアルキル基には不斉はないが、異性化して生成するα-置換エチル錯体のCoに直結する炭素は不斉である。結晶格子が不斉であればその影響を受けて一方のキラルなアルキルになると考えられる。不斉結晶格子を生成するためのキラル ハンドルとして光学活性軸配位子((R)-1-methyl-propylamine,1-(1-Naphthyl)ethylamine及び(R)-2-phenylglycinol)を配位したβ-シアノエチル錯体を合成しそれらの光異性化反応を検討したところ、いずれの場合も確実に不斉結晶格子に制御された不斉光異性化反応が起こり、(S)-1-シアノエチル錯体が優勢に生成する、また、後二者の場合、高い不斉選択性(〜80%ee)が得られることが明かになった。
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