電子的および立体的にデザインされた四配位コバルトシツフ塩基錯体[Co^<II>(SB)]を系統的に合成し、非配位性溶媒中低温で生成する五配位(配位不飽和コバルト(III)ス-ペルオキン錯体の化学反応性について研究し、以下の結果を見出した。 (1)酸化反応性:五配位コバルト(III)ス-ペルオキソ錯体[Co^<III>(SB)CO_2)]は、それ自体の酸化能は非常に小さく、酸化されやすいフェノール性物質やホスフィン類に対してほとんど反応性を示さないが、酸または酸クロリドを存在させるとホスフィン類は酸化され、ホスフィンオキシドを生成することを明らかにした。化学量論から、二次的に生起する過酸化水素やアシルペルオキシドが酸化剤になることがわかった。 (2)還元反応性:原理的にはこの錯体はス-ペルオキシド(O^-_2)を配位しているので、還元性を併せ有してよいが、実際に、オルト-キノン類と反応させるとセミキノンコバルト(III)錯体を定量的に生成することがわかった。しかし、パラ-キノン類に対しては還元性を示さず、この点が六配位形ス-ペルオキソ錯体と異なる挙動となっており、ス-ペルオキソ種の電子密度の差に帰せられると結論された。 (3)ラジカル反応性:ス-ペルオキシドはラジカルの一種でもあるのでその配位状態でのラジカル反応性に興味がもたれるが、六配位形ス-ペルオキシドが低温でフェノキシラジカルとカップリングすることが知られているのに対し、五配位形ス-ペルオキソ錯体はフェノキシラジカルに対して全く不感であることがわかった。その理由としてはス-ペルオキソ種の電子状態に金属性が大きく関与するからであると結論された。 (4)アニオン反応性:ベンゾイルクロリドとの反応でベンゾイルペルオキシドが生成することを見出したが、これは2分子のベンゾイルペルオキシラジカルの会合によると考えられる。
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