研究概要 |
世界の抱えている飽食と飢餓の問題を同時に解決するためには、成人病誘発の心配のない植物性タンパク質の栄養性、機能特性を改善することが要求される。この改質を理論的に達成するためには、構造と機能特性の相関を分子レベルで解明する必要がある。本研究では、大豆タンパク質の主要成分であるグリシニンの構造・機能特性相関をタンパク質工学の手法を用いて分子レベルで解析することを目的とした。 1.S‐S結合および遊離SH基と機能特性の相関:本研究に先立って行なった解析から、S‐S結合と遊離SH基の数とトポロジーがグリシニンの機能特性と密接に関係していると考えられた。そこで、S‐S結合(Cys12‐Cys45,Cys88‐Cys298)の形成に関与しているCys12とCys88を部位特異的変異によって変換し、S‐S結合欠失の構造形成と機能特性発現に対する影響を調べた。まず、変異タンパク質Gly12,Ser88,Gly12Ser88に対する発現プラスミドを構築し、それらを大腸菌で大量に発現させた。発現タンパク質を解析した結果、いずれのものも非改変グリシニンと類似した構造を形成していると考えられた。つまり、2種のS‐S結合とも構造形成に不必要である。一方、加熱ゲル化性と乳化性を解析した結果、Cys12-Cys45は加熱ゲル化過程におけるSH/S‐S交換反応において重要な働きをしていること、また、遊離SH基の数とトポロジーは加熱ゲル化能やゲル物性と密接に関係しているが、乳化性とはしていないことが示唆された。 2.等電点と機能特性の相関:グリシニンは等電点近辺で機能特性を発現しにくい。そこで、等電点と機能特性の相関を解明するために、等電点を変換したグリシニンに対する発現プラスミドの構築を進めている。来年度は、これらの改変グリシニンについて解析する予定である。なお、本研究経費で購入したクリーンベンチは遺伝子操作実験に用いた。
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