世界の抱えている飽食と飢餓の問題を同時に解決するためには、成人病誘発の心配のない植物性タンパク質の栄養性、機能特性を改善することが要求される。この改質を理論的に達成するためには、構造と機能特性の相関を分子レベルで解明する必要がある。本研究では、大豆タンパク質の主要成分であるグリシニンの構造・機能特性相関をタンパク質工学の手法を用いて分子レベルで解析することを目的とした。今年度は、より精密な解析を行なう基盤を確立するために、天然型のプログリシニンとは異なる機能特性を示す改造型プログリシニン(ΔI、ΔV8、IV+4Met、V+4Met、Gly12、Ser88)の結晶化と予備的X線解析を試みた。 1.大腸菌で生産した改造型プログリシニンを純度85%以上に精製し、その結晶化を透析法及び蒸気拡散法を用いて種々の条件下で試みた。至適結晶化条件は互いに異なっていたが、いずれのサンプルも結晶化した。そして、ΔV8以外の結晶はX線解析に供しうる大きさにまで成長した。 2.ΔI、IV+4Met、V+4Met、Gly12、Ser88の結晶を予備的なX線解析に供した。これらのうち、IV+4Metを除く全てのものが十分なX線回折強度を示した。ΔI、Gly12とSer88の結晶は正方晶系であり、空間群はP4_1あるいはP4_3、格子定数はa=b=114.3〜115.9A、c=145.1〜146.1Aであった。一方、V+4Metの結晶は単斜晶系であり、空間群はP2、格子定数はa=118.7A、b=78.1A、c=109.9A、β=119゚であった。そして、いずれの結晶とも非対称単位当たりのプロトマーの数は約3個で、プログリシニンが3量体であることと一致した。このように改造型プログリシニンの高次構造をX線結晶構造解析によって解明する道を拓くことに成功した。
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