研究概要 |
自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis,AIH)においてアシアロ糖蛋白受容体(asialoglycoprotein receptor,ASGPR)は免疫学的肝細胞傷害の標的抗原として最も可能性が高いとされている.ASGPRに対する抗体がAIHにおいて高率に認められるとの報告が欧米でなされているが,わが国では認められないとされており,一致した見解を得るに至っていない.さらに,こうした報告は少数施設のみからの報告であり,追試を試みた成績は寡少である.そこで,ヒト肝ASGPRの精製およびそれに対する抗体測定系の確立について検討を加えた.従来報告されているヒト肝ASGPRの精製法は充分なものでなく,この方法で得られたASGPR分画を用いたウエスタンブロット法による抗体の検出は報告とは異なり不良であった.そこで,既知のヒト肝ASGPRのcDNA配列より合成ペプチドを作成,このペプチドに対するAIH症例末梢血リンパ球の反応性を検討した.今回作成した合成ペプチドでは末梢血リンパ球の明らかな増殖反応は得られなかった.この理由として,1.標的抗原エピートプが今回の合成ペプチドに含まれなかった,2.末梢血にはASGPRに特異的リンパ球が認められないか非常に少ない,などが考えられる.そこで,AIH症例の末梢血,および肝内浸潤リンパ球のT細胞受容体のVβレパトアを指標として,両者に差異があるか否かをVβレパトアに特異的なプライマーを作成して検討した.その結果,両者間には明らかな相違が認められ,AIHにおいては特異的T細胞受容体Vβレパトアを有すT細胞が浸潤していることが明らかとなった.しかし,このレパトアは症例によって異なっており,その病因的意義についてはさらに検討が必要である.一方,今回の検討で明らかに出来なかった抗ASGPR抗体測定系の確立については現在ウサギ抗ASGPR抗体を用いてさらに検討を進めている.
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