虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス術における代用血管として、従来から使用されている自己静脈に加え、近年使用され始めている自己動脈(内胸動脈、胃大網動脈)の血流供給能を、体循環と冠循環、すなわち血流供給側である動脈グラフトと需要側である冠循環の血流動態的適合性の面から検討した。成犬を用い、第1の人工血管を上行大動脈に吻合し、第2の人工血管を胃大網動脈を想定して第一腰椎の位置の下行大動脈に吻合し、両人工血管を合わせたY字グラフトを作成し、これに内胸動脈を吻合した複合グラフトを作成した。この複合グラフトを体外循環下に冠動脈左前下行枝に吻合した後冠動脈中枢側を結紮し、最終的に複合冠動脈バイパスモデルを作成した。この冠動脈バイパスモデルにおいて、パルスドップラー血流計と先端圧力トランスジューサーを用い、各グラフトの血流量及びグラフト内圧を測定した。グラフト血流のうち収縮期血流量は3グラフト間で差がなく、拡張期血流量は上行大動脈グラフト、内胸動脈グラフト、下行大動脈グラフトの順に低下した。収縮期グラフト内圧は3グラフト間で差がなく、拡張期グラフト内圧は同様の順序で低下した。各種のグラフトで、グラフト拡張期圧と拡張期血流量には高い相関が認められた。拡張期優位の冠循環に対してはグラフトの拡張期圧がグラフト血流における駆出圧として作用した。以上、冠動脈バイパスモデルを作成することにより動脈グラフトと冠循環の血流動態特性を解明し、両者の適合性の検討から動脈グラフトの血流供給能を検討し、動脈グラフトの血流供給能の不足の原因を究明した。
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